黄ばんだ紙切れ

星を見続ける

 

 

明日、兵庫芸文でジョジョミュが大千秋楽を迎えます。

このエントリーは、期待もしてなければ大して楽しみにもしてなかった解禁から初日までと、幕が上がってから今日までの記憶です。

 

 

 

解禁時

作品自体が告知された時のことは正直よく覚えていない。 ジョジョ原作にも触れたことがなかったし、そのくらい意識の範囲外のタイトルだった。
強いて言うなら、また帝劇で漫画原作作るんだ……ラストイヤーなんだから古典とかやったら楽しいのに……と思っていた気がする。まあわざわざ行かないかな。そんな位置付けだった。

 

それが一挙にぶち壊されたのが8月29日の、確か早朝5:30頃。
たまたま前日作業が終わらず完徹していて、少しだけでも寝ようと布団に入ったとき。

 

寝れるか。

 

なぜ有澤さんの大きい解禁はいつもいつも早朝なのか……

 

 

こうして想定外の観劇が決まったわけだが、正直この時点では全く喜べてはいなかった。『帝劇ミュージカル主演決定!』なんて、舞台俳優とそのファンからしたら一つの到達点みたいな出来事なのに。その肩書が喉から手が出るほど欲しかったり、長年待ち望んでる人もいたりすることは重々わかっているのに。

何ならがっかりすらしていたかもしれない。

 

その理由として、さっきも書いたように親しみの薄いタイトルだったことに加え、まずそもそもわたしは帝劇があんまり好きじゃなかった。なぜなら観づらくて聴きづらいから……
昔行ったレミゼで、目の前の男性グループの頭が被り倒し3時間バリケード以外何も見えなかった記憶とか。2回最後列から観たエリザの集中どころじゃない遠さと高さとか。大人になり観劇慣れもした今では、いざ行ってしまえば思ったほどでもないな……?となったりもするんだけど、そうした記憶が先入観としてこびり付いていて、出来れば積極的に座りたくはない劇場。それがわたしの中での帝劇だった。

そうは言っても権威として、空間としての帝劇の素晴らしさは理解できる。あの内装も雰囲気も、周囲の街並みも選ばれる演目も大好き。ついでに地下鉄直結なの最高だなと思ってる。
だからこそ俳優ファンを始めてからは「帝劇に立ってほしい(そのくらい評価されてほしい、成長していくと期待したい)」と混じり気なく思っていたし、一昨年のキングダム解禁も嬉しいと思えた。

yamanomine.hatenablog.com

しかしこれらは全て+αの部分であって、得られる観劇体験のみに絞って言うなら、まあやっぱりぶっちゃけ通うの憂鬱だなとも思った。

 

 

更に感情を分解すると、この「帝劇出演自体がほんのり嫌」という前提の上に、わたしの「主役じゃない有澤さんがめちゃくちゃ好き」という趣味が重なっていた。なかなかに偏屈物な自覚はある。

主役が嫌いなわけじゃない。わたしの始まりはどうしたってSLANGだし、二人芝居もセトウツミも全部記憶の中の大事な箱に仕舞ってある。それはそれとして、「ザ・主役」「スター」「リーダー」感溢れるキャラクターや役者の隣で、補佐だったり友人だったりちょっとした飛び道具を担っているときの有澤さんがめちゃくちゃめちゃくちゃ大好きだということ。ていうかありさわさんってそういう役多いよね。

別にそのこと自体はただの趣味だけど、その副作用のように「有澤さんが大きい作品で主演張ってるビジョンを浮かべられない」という状態に陥っていたのが去年の夏だった。考えてみれば先に挙げたのも全部小規模かつW主演のものばかりで、明確に大規模な作品の主演になるのはこれが初めてだったことになる。*1

 

これらが混じり合った結果、わたしのジョジョミュ解禁に対する感情は困惑・億劫さ・拍子抜けが大部分を占めるようなもので、歓喜と言うには程遠かった。

 

 

初日前

そういうわけで、「とりあえず初日取っといて楽しかったら増やせばいいや」程度の非常にやる気のない状態で2月になった。なんなら直前ののだめが致命的に合わなかったこともあり東宝の漫画原作新ミュージカルに対する信用がマイナスになっていたので、期待値はこの時点がどん底だった。

 

そこにみんなご存じのとんでもない事態が発生する。
わたしが最初に目にしたのは、確かFCからのメールだったと思う。

s-arisawa.com

意味が分からなすぎて、一回見なかったことにした。
時間を置いてもう一度読んだけど、やっぱり意味が分からなかった。今読んでも理解はできない。

 

まるでモチベがなかった中で、辛うじて今度はハマるかもしれない、ハマりたいという気持ちの支えになっていたのは同規模新作のキングダムが良かったという事実と、なんだかかなり原作愛が強そうな運営の振る舞いだった。
それこそ2月7日に全員が初日を迎えるよう組まれたスケジュールとか、だいぶふざけてるグッズたちとか。これだけやる人たちが作っているなら、たとえ合わなくても見られないものにはならないだろうと。

 

そしたら約束通りに見せてすらもらえなかった。満点大笑い

TLのフォロワーはみんな怒るか呆れていたし、悲しむ人のツイートもたくさん流れてきた。自分も咄嗟に頭に浮かんだことを文字にしたら、かなり怒っているみたいになった。瞬間的に感情がわっと噴き上がって騒いでみたり道端で泣いたりもしたけど、実際のところは、どうだったんだろう。
のだめの初日がめたくそだったことなんて何今更騒いでんだよ。わたしはずっと悲しんでたのに。と思った。蓄積されていた苛立ちとか悲しみとか不安が全部そのまま硬直したような感触で、世の流れに乗る気にもならなくて全部が面倒だった。今思うと失望だったのかもしれない。

yamanomine.hatenablog.com

 

 

マイ初日、そして有澤さんの初日になるはずだった2月7日、予定を開けてしまったからには家にいたくなくて、予定通りの時間に帝劇に行った。急遽呼んだフォロワーも来てくれた。大感謝

あの時の物々しく異様な雰囲気の帝劇のことは、たぶんずっと忘れないと思う。

その重苦しさすらもうバカバカしくて、ふざけた写真撮って遊んで帰った。ZIPの取材班が来ていて話しかけられ、非常に失礼な態度を取った。大人として申し訳ないとは思うけど、被害者としてはあんなもんだったと思う。

もうミュージカルのオタクも俳優のオタクもやめようと思っていた。なのに暇さえあればスマホで12日以降のチケットを探していて馬鹿すぎて死にたくなった。

 

 

 

開幕後

12日のソワレは、本当にたまたまチケットを取っていたフォロワーが来ていた。人が多すぎて時間がなかったので、幕間に会う約束だけして着席した。現帝劇、キャパに対してロビーが狭くてトイレと物販の動線おかしいところも嫌い。

1幕が終わって、ロビーで待っていたらフォロワーが現れた。その瞬間涙腺が壊れた。

たぶん「幕開いた」「よかった」「始まった」くらいしか喋ってなかったんじゃないかと思う。そうだねそうだねって言われながら、自分がそんなにそこに固執していたことに驚いた。人ごみど真ん中で介護されて手を握られて、自分の体温が馬鹿高くなっていることに気づいた。

観ている間考えていたことは、「ド派手」「重い」「圧がすごい」「この演出じゃ時間かかるに決まってるわ(最初から適切な期間を設けろ)」とか、あと「すごい出来だけど自分にハマってるかはわかんない」「また大好きだけでいっぱいになれるかはわかんないけど有澤さんてすごい」とか。なのに言葉になったのはそれだけだった。気持ちと乖離した体が勝手にだばだば泣いてるような感覚だった。

 

 

 

そうして今に至る。とりあえずで増やした席に座るたびに、あの開幕日の1幕の感想は何だったんだろう?と思うくらい頭が幸せと楽しいの成分でいっぱいになって、気付いたら硬直してた脳は全部洗い流されていた。
当初全然通うつもりなかったから全然スケジュールが空いてなくて、無茶苦茶なリスケとガンダと観劇を繰り返してるうちに帝劇公演は終わっていた。帝劇楽の有澤ジョナサンと宮野ディオが今でも焼き付いていて、たぶんこのままあれが観劇体験2024になるんだろうな、と思う。そして札幌に行き、今兵庫にいる。有澤さんの地元で、17AGAINぶりの会場。初めて立ったグランドミュージカルの舞台と同じ場所。

 

ジョジョミュ、何回観ても長い。尻が死ぬ。今日のマチソワでももう体力の限界。そしてやっぱりかっこよくて苦しくて大好きだ。

信じられない不祥事を起こしたことが、作品の実力で全部塗り替えられてしまえばいいと思う。実際そうなっていく様子をこの2ヵ月目にしてきた。その力がある演目とカンパニーだから。
同時に、このまま大楽を迎えても大団円でしたとは絶対に言わせねえとも思う。あの時間も感情もなかったことになんてさせてたまるかと思うし。二度と同じことを繰り返さないでほしい。

 

どうか、めちゃくちゃでぼろぼろなこの冒険が歴史に刻まれるといい。

思い入れのトップコートによって、かなり愛せる線が見えてきたのに。もうあと1年足らずであのクソで大切な思い出の場所はなくなってしまう。

国内最高峰の劇場のクロージングラインナップに並んだその名前が、輝かしく締めくくられますように。

「明けても暮れても考えている事柄、それがその人なのだという言葉がある」。

有澤樟太郎さん。帝劇初主演おめでとう。

 

 

 

*1:刀ミュは6振りないし8振りが主役論の支持者なので……