黄ばんだ紙切れ

ミュージカル『のだめカンタービレ』の感想

 

 

 

 

ミュージカル『のだめカンタービレ』、初日2日目を観劇しました。
各セクションについていいと思ったところと受け入れられなかったところをそれぞれ書きます。

わたしは今年何回お気持ちブログを書くんでしょうか。怒りも悲しみもわたしが書き留めておかないと消えちゃうから……

 

 

勢いのまま上げたツイート群が思いの外広い方の目に留まっていそうなので初めに記しておきますが、わたしの感想は全てあくまでわたしの主観です。何か意見を述べられる際はご自身の言葉と視点でお願いします。
またこの文に作品を楽しんだ人、称賛したい人を貶める意図はありません。

 

 

 

 

良かったところ

演出

・オケの扱い

実際の伴奏のオケが舞台上にそのままオケのメンバーとして存在していて、AオケにもSオケにもR☆Sにもなる。衣装替えもするし芝居もする。最高だった!!
オーケストラがメインを張るのだめじゃなきゃできない裏方へのスポットの当て方だったと思う。

 

・衣装

とにかくカラフルでかわいい。
場面や季節によって変化するキャラクターたちの私服、とりわけヨーコワンピが全部具現化してて感動した!!
のだめの一張羅ジャンパースカートが、角度によって反射の仕方が変わるすごい綺麗な生地使っててまじまじ見てしまった。ヨーコ、奮発したんだな……(ナカサチさんです)
峰くんの多種多様なド派手シャツとか、清良のブラウスのふくらみとか、真澄ちゃんのドレスとか、全部漫画のキャラクター的でありながら本人に似合って自然でスタイルが良く見えてとても良かった。三浦くんがあんなにただのシャツ&スラックス似合うと思わなかったな。
生徒たちの衣装も音楽やってる人でこういう格好の子たち、いるな……という質感がすごい。

ぶっちぎりですごかったのがペトルーシュカ。あれだけ豪奢で重そうな衣装で、ほぼ全員がゴリゴリにバレエする。すごい。1シーンのカオスのための力の入れようじゃなかった。
ペトルーシュカの華やかさやバレリーナのスカートのふわふわや、ムーア人がターンした瞬間の布の広がりが恐ろしく綺麗だった。
キングダムのカテコで王騎将軍がセンター歩み出て来たときとかにも思ったけど、ナカサチさんの衣装って動きについてくる軌跡がものすごく美しい。卓越したテクニックで衣装を捌いてるようには見えないのに、どこを切り取っても完璧なシルエットを保ってる(もちろん役者の魅せ方の技術もあってのことだとは思ってるけど)。

あの服でバチバチバチバチに踊った直後爆速でいつもの服で出てくる千秋、お疲れ様過ぎた。
のだめに限らずプリンシパルもアンサンブルもめちゃくちゃ衣装多かったけど、舞台裏どうなってるんだろうか……オケの人たちの衣装替えまであるし……

観に来たフォロワーが峰くんの紋付袴を「北九州の成人式」って言ってて死んだ

 

・兼役の配置

ド頭のヴィエラ先生を三浦くんがやってて二度見した。なるほどね?
他にも仙名さんのクラブのママとかやっくんとか瀬川くんとか色々あるけど、これもペトルーシュカの話。ペトルーシュカが飛び抜けて大好きで……

ペトルーシュカを千秋、バレリーナを清良、ムーア人を峰くん、人形遣いミルヒーの役者が兼任してたのが超超超好き!!!!!!!
ペトルーシュカはのだめの叶わない望みの具現化であり、のだめ自身でもあり。焦がれるバレリーナと彼女を連れ去るムーア人が千秋を世界へ押し上げてしまうR☆Sそのものみたいな二人で、唆した全ての発端がミルヒー
全部良い。まじで好きペトルーシュカ。舞台版のだめで三浦宏規主演だからできることだったし、ドラマアニメどのペトルーシュカよりも良かった(べた褒め)

 

 

キャスト

・千秋

プライド高くていつもイライラしてて姿勢が良くて偉そうでお坊ちゃま育ちが滲み出てるのがとても似合う。褒めています。

冒頭の子役がかわいかったこともあって、始まった瞬間は原作ドラマよりかなり幼く未熟な印象を受けた。実際この時点で千秋ってまだ20歳だし、自分や周りが思ってるより未熟なクソガキだから正解なんだけど。
でも観ているうちに「これが千秋先輩なんだ」と自然に入ってきたし、駆け足な脚本でものだめの音に惹かれるところがちゃんと追いかけられた。「あのゴミ女!!!」とかいう令和で早々聞かない罵倒からのだめによわよわになってしまうまでのグラデーションが良かった。
大袈裟なのだめの釣り方が見たことあって笑う

当て振りが上手い。指揮は特に上手かったしピアノも観ていて大きな不自然を感じるところはほぼなかったと思う。ペダルは適当だなと思った。
ペトルーシュカはまーーーーーーーーーじですごい。チケット代の9割以上はあそこに出したと言っても過言ではない。

初日若干声が掠れてる?という気がしたけどどうだったんだろう。前聴いた時はもっとツヤツヤの声だった気がして。オタクじゃないからわからんけど。
出番も早替えも多いし一番歌いまくるし踊りまくるしめちゃくちゃ痩せたな……と思ったので心配になる。

 

・峰くん

有澤樟太郎役の峰龍太郎さん
解禁される前からバレバレだったことが本人にバレてて笑った ごめんて
スタンとか瀬戸くんとか和泉守とか、ここ数年で演じてきた役の最大公約数みたいなキャラだな……と思った。仮に尾木P制作じゃなくて千秋が三浦くんじゃなかったとしても絶対峰くんに選ばれてたしバレてたと思う。

初登場時千秋に反発する峰くんって、もっと持てる者(と思ってる相手)への僻みと不理解と偏見と自尊心の塊、ダーティペアとそんな変わらんダサい奴の一人ってイメージだったのに、めちゃくちゃちゃんと信念を持ったロック志向になっててウケた。そういうのは良いと思う。
SオケでもR☆Sでも、熱意と人柄で引っ張ってるお祭り男なのが最高に上手くてはまってて流石すぎる。
のだめにボロクソ言われてるときどんどん泣きそうな顔になるところ、清良のヴァイオリンが好きだ!!!!!ってキラッキラの顔になるところ、コミカルで場のエッセンスになる表情の作り方が堂に入りすぎ。もう峰くんがいる間ずっとウケてる 存在に(?)
以前のこともあってどうかな……と思っていた構えはとても様になっていた。ボーイングとフィンガリングはやや気になったけど……。
音だけデカいならもっと弓のヘッドからグリップギリギリまでたっぷり使ってたらそれっぽいしかっこいいのにな……でも峰くんってヘタクソだからなあんなもんかな……という要らんジレンマ。

清良が登場して以降出るたび恐ろしくかっこいい。10年越しに峰くんと清良が歴代推しカプ傾向ど真ん中なことなんて気づきたくなかった
無意味に清良の肩抱いたり清良も満更でもなさそうだったり滲み出る人たらしオーラがすごい。「お前首どうしたぁ!?!?(白目)(半泣き)(流れホテル)」がドドドドかっこいい彼氏ムーヴになってて死んだ どうしてくれるんだ

それなのになんで肝心の峰くんが清良の音に恋する瞬間は全部オフ芝居なんですか!!!???💢💢💢💢💢💢💢

 

・真澄ちゃん

「真澄ちゃん」。すごい。漫画とドラマで見たことあるあの真澄ちゃん。

歌声も仕草も立ち居振る舞いも全部がかわいくて真澄ちゃん。峰くんに負けず劣らずすっげー服ばっかり着てる。
なんだけどプリンシパルの中でぶっちぎりで描写が少なくて悲しかった……出番自体はあるのに……こんなに最高なのに……故にここに書くことが全然思いつかない……
のだめとも全くバチバチしてなかった。そりゃ死んじゃえ委員会とかクリスマスバトルはカットされるだろうけど日常キャットファイトくらいは見たかったよ。

R☆Sの練習でコンクールの稽古ばっかりしてるフルートを窘める時の申し訳なさそうな悲しそうな表情がすごく良かった。
多分モーツァルトオーボエ協奏曲だったと思うけど、ソロパートの千秋様に届けたい~私のティンパニー~ドドドドーン!(SE)みたいな部分がかわいくて気持ちよかった。

まじで真澄ちゃんの描写を5倍くらい増やせ

 

・清良

女声プリンシパルが2人だけで1幕のソロもほぼ男声だったので、2幕頭で歌い出した瞬間好き😭😭😭😭なった。スタイルが良くてヒールとヴァイオリンが似合っててわかりやすく自信満々な演奏家。このお姉さんが真っ赤なドレスで大迫力のソロ弾いてマーラーが好きなの、そりゃ一目惚れする オレの真っ赤なルビー……
のだめの登場人物って、みんな容姿や人柄ではなく音楽性やアンサンブルの相性で惹かれ合うところがとても好き。
峰くんと飲み会で意気投合する場面がなくなり当初険悪だった描写はええ?と思ったけど、告白以降が全部サイコーだったので帳消しになりました。

清良⇒千秋の興味は歌ってたと思うけど、千秋⇒清良もかなりの好感と信頼と興味を抱いてるってところがもっと描写されればよかったのにな。

峰くんも無意味接触多かったけど、清良も峰くんの蝶タイ直した後無意味に胸元弄ったり怒った峰くんのこと宥めて2人でちょっと笑ったりしてるのがもうもうもうもうもう(カプ厨さん……)

 

・黒木くん

顔がかわいい。武士というより学級委員(?)
あまりにさりげなく登場するので、のだめが差し入れ押し付けるまで黒木くんがもうオケメンバーに混ざってることにも一瞬気付かなかった。そういうところも黒木くん……

ソロがめっっちゃくちゃいい。上手ければ上手いほど、黒木くんが真面目なら真面目なほど片想いの説得力とシュールギャグの精度が上がる……
オーボエへの想い歌う曲が本当に良かった。短くて急展開だったけど。劇中誰よりもちゃんと「ミュージカル」してた気がする。
脚本上の問題だけど、のだめと出会う前のいぶし銀で職人な音楽と人柄もちゃんと見せてくれたらピンク・モーツァルトがもっとおもろかったのになあ。

この黒木くんがターニャに絡まれてるところが見たすぎる。てか衣装まじで青緑じゃなかったですか?

 

・アンサンブル

全員巧くてかわいくて職人だった~~~~~

のだめに分かりやすい変なサブキャラが無限にいるお陰で、アンサンブルの方々もゴリゴリに役がついてて嬉しい。原作厨も彩子や谷岡先生やマキちゃんやエリーゼやパフェ(多分?)が存在してて嬉しい。
瀬川くんがまじで瀬川くん。松村さんすげえ。表情の動きが本当に気味悪かったし本当に頭長く見えた。あれはどうなってるんだ

 

・シュトレーゼマン

うわ ドラマのミルヒー
これは昔から思ってるんだけど、なんで実写のミルヒーってロン毛なんだろうね。短髪のままで良くない?

キャストを誰が務めるかに関わらず、ミュでも出るたびにロミジュリ流れたらどうしよう……と思ってたんだけど別にそんなことはなかった。
流石に巧い。声がいい。確かにドラマのまんまだけど、別世界線の切り貼りではなくちゃんとあの中の1キャラクターとして「知ってるミルヒー」がいるという感覚だった。

 

・ハリセン

振付の馴染み方というか、身のこなしというかいるだけでギャグ間の出る立ち居振る舞いが上手い。説明が難しいんだけどとにかく動きがいちいち巧みだった

台詞のリフレインとか二度見のアクトとかはちょっと食傷気味だった。ほどほどの方が面白かった。

 

・のだめ

ピアノの当て振りとアドリブがべらぼうに上手い。
弾いてる時の上体の動かし方も腕の動きやタイミングも全然違和感がない。

峰くんに「化粧品とか持ってねえの?」と聞かれて「盗んだんデスけどね♡」と挟んだときとか、コマの外の情報補完がすごく上手いと思った。

あとこの褒め方は自分でもどうかと思うけど、本当にかわいい。若い。細い。「舞台ってのはそういうもん」があるにしても、本当に本編中千秋の後輩に見えるのはすごい。

 

 

気になったところ

演出

場転が一辺倒……
上下左右から壁が出て来て、ドアに見立てた隙間から人間が出入りする。紗幕が開いたらオケが控えてる。ピアノを乗せた盆が回りまくる。以下無限。
後ろにオケがいるから隠すために仕方ない面もあるんだろうけど、壁の動きが多すぎて忙しなかった。

人間の立ち位置も袖付近舞台のツラギリギリで向かい合って会話!みたいなシーンが多すぎて、話している2人の表情を同時に見られる瞬間がほぼなかった。総じて舞台上が詰まってる印象が強かった。

 

そしてこれは初日に限った話ですが、あまりに機構トラブルが多すぎて物語どころではなかった。
序盤からセットを動かすたびにゴトゴトいう音がやけに大きかったり、場転の間に違和感がある気がして気になってはいたけど
・ハリセンの練習室で降りてきた壁がピアノの天板に衝突する
・背景のストッパーを外さないまま場転が始まり、スタッフがスライディングで直しに入って来る
辺りで流石に見過ごせなくなった。そういうのはゲネプロまでで改善してください。
何度も公演する中で起こってしまったトラブルなら仕方ないけど、一発目で上手くいかないものは確実に問題があるじゃん。

楽器なんて握り方や置き方に至るまで自分の体よりも大切にすべきものなのに、ピアノに対してあの扱いで音楽や楽器への情熱を語られても何の説得力もない。
あの時点で完全に興を削がれてしまった。

 

 

脚本

全ての展開が描写不足だと思った。

「千秋先輩がモーツァルト?」の台詞はあっても、そのモーツァルトがどこで演奏される何の曲なのか。キャラクターは今何を目指して練習しているのか。そもそもモーツァルトに、千秋みたいな音楽家にどんなパブリックイメージがあるのかとか、そういう説明が一切合切足りなかったと思う。
何もかもが瞬く間に進んでしまって、情報も足りなければ名シーンと呼ばれる場面の感慨もクソもない。「俺の音を聴け」「その口やめろ!」「楽しい音楽の時間デス」など各キャラの象徴的で何度も繰り返される台詞や特徴が、冒頭にちらっと触れられるだけで全部流されてしまう。
反面そこ必要だったのか?というようなギャグや原作の1コマをやたらめったら広げて尺を占めていて、どういう風に取捨選択したのか本当に謎。

 

その結果どのキャラも描写が少なすぎて大した印象が抱けない。

特に真澄ちゃん。原作4~5番手のキャラがあんなにペラペラな扱いだとは思わなかった。
「目をつぶって聴いていれば最高」なのも打楽器の女王なのも人間メトロノームなのも一切描写がなくて、千秋に実力を認められ報われることもなくただただ出て来ては騒いで愛を飛ばす道化キャラになっていたのが受け入れ難かった。歌もお芝居もあんなに素晴らしいのに。

峰くんと千秋の対立をあれだけドラマティックに捉えるのであればこそ「オレはクラシック一本で生きてゆく」は絶対必要な台詞だったと思う。でなければクラシックコンプレックスだった峰くんがSオケに打ち込み、実力派の清良に恋する説明が付かない。

Aオケをやたらみんなの憧れの存在!みたいに打ち出すのに、別にSオケがそれを超える存在かに思われつつ実態は落ちこぼれオケである事実は描写されないので、オープニングナンバーの存在意義が宙に浮きっぱなし。「マスコットガール?」の台詞も投げっぱなし。そもそもSオケってなんだったんだ?
Sオケメンバーの心がミルヒーから離れる過程も一瞬で飛ばしていくので、みんなが突然都合よく千秋を祀り上げたように見える。

千秋の「前ほど夏が不快じゃなくなった」を入れるなら、冒頭の音楽、辞めようかな……の前に「日本は湿度が高くて息がつまる、音もゆがむ……」は入れなきゃ意味が通らない。

 

2幕の展開はもうこれ説明する気ないんだな、と観ていてずっとイライライライラしていっそ早く終わらないかと思った。

ニナ・ルッツ音楽祭を丸々カットしたのはまあ、わかる。ドラマでもすっ飛ばされてたし。
だとしたら清良や黒木くんが登場し、R☆Sを組むに至った流れをもう少し丁寧に補完してほしかった。いきなり「三木清良!?」「流石カイ・ドゥーンの弟子!」って叫ばれたところで誰?何?になる。そもそも急に出て来た佐久間さんが誰なんだよ 自己紹介くらいさせたれ

ラフマニノフを聴いたのだめの焦りはさらっとなかったことになり、千秋がシリアスに悩んでいるシーンに突然能天気なのだめとハリセンのシーンを挟まれても冷める。説明もなく生えてきたR☆Sに突然峰くんが人生を賭けていると言われても困る。みんながリハに身が入っていないと言われてもそもそもR☆Sが一体どういう団体なのかも伝わってないし、前振りなくいきなり人生を賭けたオーディションに挑まれても……

そして何の展開もなく勝手に落ち込んで勝手に奮起してる千秋。まじで情緒どうした

R☆Sが落ちこぼれ集団のSオケとは真逆の、千秋と同レベルの優秀な人間ばかりが集まった全くの別団体だということが果たしてどれだけの初見客に読み取れたんだろうか……

まともなオケであるR☆Sに「マスコットガール」など存在しないのでのだめはお役御免となり、千秋の周囲にいる居場所を失くしてしまうこと。
黒木くんの言葉で「楽しむことと上を目指すことは対立しない」と学び、ずっと一緒にいるために嫌いな練習をして海外を目標にすること。それがのだめにとってどれほど勇気のいる決意だったのか。
千秋の方も、ド真面目堅物人間がのだめや峰たちに影響を受け、ラフマニノフやラプソディインブルーを通じて日本を出る心が固まるまでの流れ。

のだめカンタービレの素晴らしいところって、全てのキャラクターの出会いや会話、その中で奏でた曲の一つ一つが人格や成長に影響を及ぼしてるところなのに、全部ブツ切れで飛ばし飛ばしに「必要っぽいシーン」だけを並べ立てられても物語として成立しない。時間とお金かけて壮大なPV観に来たわけじゃないんだよ

ベト7もラプソディインブルーもあんなに扱いが軽いと思わなかったな。

 

 

音楽

ナンバーは概ね・完全オリジナルのもの・クラシック楽曲をベースにオリジナルのメロディが乗るもの・クラシック楽曲にそのまま歌詞が付いたもの
に分けられ、この順で数が多かったと思う。
どの曲もかわいいかっこいいものばかりで耳馴染みが良かった。オープニングの生徒たちの曲とか、千秋と峰くんのデュエットとか、黒木くんのソロも良かった。めちゃくちゃ短くて急展開だったけど。ペトルーシュカもずば抜けて良かった。

しかし多くのナンバーの使い方が「各シーンにそれっぽいテーマソングを付けました」「台詞をメロディに乗せました」という感じ。曲と曲の繋がりがびっくりするほど不自然。そもそもさっきも書いた通り脚本の繋ぎがめちゃくちゃだからこれは音楽側の問題ではないかもしれないけど。
場転のたびに短い賑やかな曲が始まって30秒そこらで終わる。ちょっと会話したのちにまた別の曲が始まる。今の場面は何で歌ったんだ……?台詞でよくないか?なんでその曲はそこで終わったんだ?が繰り返され、似た雰囲気の曲続きで終演後ほぼメロディを覚えてない。
というか何しろ曲数が多くて……その割にパンフレットにも楽曲リストが載っていないので順番も構成も把握しきれない。

所謂I wantソングだとか、リプライズだとか、明確な役割を持たされたナンバーが極端に少なかったように思う。てか役割のない曲って要らないんだよミュージカルなんだから。

ミュージカルを冠するからには、ちゃんと音楽が物語を主導していってほしい。音楽を装飾に使うのではなく。

 

ぱっと思い出せるだけでもあの曲なんだったの?になったのが
・掃除の曲
・合コンの曲
ミルヒーが来ない曲
・キッスで転科の曲
・こんなオケやめてやる〜の曲
・お前は俺が選んだ生徒や~!!の曲
・のだめハリセン協定の曲
・ドイツに帰るから写真集送れの曲

とか。こうして見るとミルヒーの曲ばっかりだな……
ミルヒー、人間的にはめちゃくちゃだけど、音楽的には千秋も無条件で尊敬せざるを得ない本物の巨匠だってことが全然わからなかったなあと思う。デタラメスケベジジイなのは挙動とワンモアキッスの曲だけで十分伝わるから、もっと交響曲のところとかで思いっきり歌と貫録を見せてほしかった。せっかく歌えて声も良くて「本物」なのに……。常日頃言ってるけどミュージカルって歌こそが説得力なんだよ。
掃除の曲に関しては序盤軽快に歌い出してあ~ミュージカルっぽいね~と思ったら本格的に片づけが始まったらほぼ歌わずに手動かしてて歌わないんかい!!!!!!なった。

 

とりわけストレスだったのが、ベト7ラフマニノフなど「クラシック楽曲をベースにオリジナルのメロディが乗る」タイプのもの。言葉を選ばずに言うけど、付け足したメロディラインが完全に原曲に負ける、もしくはノイズになっていた。
大体がナンバーの頭は原曲そのままで途中から新しい旋律へ移行する形になっているのが、移った瞬間一気に曲の展開を阻害される感覚がする。手なんか加えなくていいのに、そのままで完成されていて美しいのにと思ってしまう。
逆に途中から原曲に戻るタイプのナンバーでは、それがどれだけ短くとも最後の一音が鳴った瞬間にあっ拍手しなきゃ!という衝動が湧く。
単独で聴く分には恐らく何とも思わないのに、図らずも時代や場所を超える音楽の偉大さを身に沁みて感じた。

 

歌詞の乗らないインスト曲やSE扱いのものも、ドラマ同様クラシックをそのまま引用している場面もあれば書き下ろしの場面もあって、一貫性の無さに意識が持っていかれる。

”ミュージカル”なのに、”のだめカンタービレ”なのに、あまりにも音楽が物語に溶け込んでいないどころか一番の不和のもとになっていて悲しい限りだった。

 

 

キャスト

・のだめ

10年でのだめのキャラ忘れられました?

ほとんどのプリンシパルが新規にキャスティングされている中に上野さんがいるのって「本物だから」の一点だと思うんだけど。どう見積もっても「あの頃ののだめ」には見えなかったな……
ドラマや映画ののだめって奇声を発する珍獣で色ボケ脳で故意にもじもじすることはあっても、自意識過剰で悩みがちな千秋に対して割かしサバサバしたキャラクターだったと思う。
それが映像と舞台の違いとかいう次元ではなく、あまりに発音がふにゃふにゃしていて、ぶりぶりした猫撫で声。動きにも台詞にも芯がない。
のだめって目の前にいるとぶりっこで嫌だな……と思ってしまったことが本当に悲しい。
ラフマニノフ後の弾かなきゃ、ピアノを弾かなきゃ!!!とか、作中屈指の鬼気迫るシーンだったはずなのに。もちろん演出・展開・曲の問題も多大にあるけど、一切迫力がなくて困惑した。

 

歌は、もう。別に元から多大な期待もしてなかったですけど。
上記の喋り方をそのまま歌にしているので、まあそういうキャラクター・そういう演出で統一するならある意味正しかったのかもしれない。
でも悲しいことに、のだめ以外の全員は「ミュージカルの歌」を歌っているんですよね。
最終盤まで短いソロしか歌わなかったから持ちこたえていたのが、主人公2人のデュエットになった瞬間もう……あーあ………………
『カラオケとステージ』レベルならまだ良い方で、曲終わりの歌い上げるパートでは完全に三浦くんの音圧に負けてほぼほぼ聞き取れなかった。致命的。

 

初めてだから、主演だから、ではない。ただただ事実として、ミュージカルの舞台に立つだけの技量が伴っていなかった。
「ミュージカル『のだめカンタービレ』」ならそのキャラが生み出す音楽も人間性も抱えた背景も歌の中で表してほしかったしそうするべきだったはずだし、のだめなんてそれこそ歌い出した瞬間その「音楽」で全てを圧倒してほしかった。

普段の変態で珍獣で勉強嫌いなのだめと、ピアノの悪魔に憑りつかれたようなのだめの両者を歌で表現できる役者が絶対他にいたはずなのに。
のだめカンタービレ』が音楽の力を信じなくてどうするんだろう。

 

 

運営・制作

明らかにずっとごたついてましたよね。わかってたよそんなことは。

上演が告知されたのが昨年の9/22。
そこからかなり長い期間が空き、他の同時期に行われる公演の詳細が続々発表される中ようやく主役2人のキャストが出たのが今年の3/22。
アンサンブル含む全キャスト発表が5/22。東宝制作は大抵1年~8か月以上前には情報が出揃い半年前にはチケ発が始まる印象なので、随分ギリギリを攻めたな……と思っていた。
と思いきや追加でシュトレーゼマンのキャスト発表が6/22。
チケ発は7/29。
信じがたいことに黒木くんが追加されたのが8/24。既に正規入手ルートのチケットは一般まで悉く完売していた。
そして主演以外の扮装ビジュアルは出ないまま10/3に開幕。

 

春にのだめと千秋のキャストが発表された時、上野さんは「原作者の二ノ宮先生から舞台化の話を聞き、興味があると申し出てまたのだめを演じることになった」と会見で話されていました。

spice.eplus.jp

正直まずこの発言に目を疑った。いや………………………
東宝の作品制作でそんなことって今まであった?
それってゴリゴリのコネでは?しかもそれを作品発表で堂々言っちゃうんだ……
あまりに堂々と発言されているから自分の感覚の方がおかしいのかと思った。

そして公演初日パンフレットを購入したところ、音楽担当の和田さんコメントに「妻が主演に決まり、そのミュージカルで作曲できたら……!と思ってから1年」と記されていた。

 

不自然で不誠実なスケジュールと、作品の根幹を担うポジションが制作発表以降に為されているという事実。
邪推はしたくないけど、これらを結び付けてしまうのはわたしが穿ちすぎなんだろうか。

 

度々話題に上がるこんな記事もある通り、一般的に商業演劇というのは我々観客の目に触れるよりも遥かに長い時間が費やされて公演に辿り着いているものだと思う。

www.saiyo-info.net

何なら既に基盤が出来ていて版権の交渉がメインの輸入物よりも、0から作品を生み出すオリジナルの方が日本版制作の時間自体はより長く設けられているはずだと考えるのが自然だろう。舞台役者は2~3年先までスケジュールが埋まってるとも言うし、本格的な制作より更に前から根回しも始まっているはず。

それが「音楽制作が決まったのがキャスティングよりも後」「公演まであと1年のタイミング」なんて、まずありえなくないですか?ましてやこれは『のだめカンタービレ』で、音楽が何よりも先だって真ん中にあるべき演目のはずなのに。
仮にこれが全然よくあることで他にもそういったスケジューリングや立案で打たれている公演があるというのなら、その方が会社の印象にも関わってくると思う。

だとすれば、「公演告知の時点では別ののだめ役の俳優、別の音楽担当者が内定していた」「上野さんが申し出たことで芋づる式にそれらがひっくり返り、全てのスケジュールが後ろ倒しになった」のではないか、という想像をせざるを得ない。

邪推に邪推を重ねる形だけど、その結果が今までに書いたような作品の仕上がりなんだとしたら。あまりにも遣り切れない。

 

そしてこれはのだめを演じる役者としてではなく、上野さん個人について。
先に書いた、初日に起きたセット含め様々なトラブルやミス。それについてカテコ挨拶で「色々ありましたがご愛嬌ということでお願いします」という発言がありました。

ありえないと思います。
起きてしまったトラブルについて、主演だからと言って責任なんかない。決して不備に頭を下げろだなんて思わない。
だとしても、上野さんは舞台をなんだと思ってますか?
そういう意識で板に立っているなら二度と舞台になんか出ないでほしい。
舞台にアクシデントは付き物、同じ公演は一つもないなんてことわかりきっているし、確かにその上で座席に座っている。だとしても、そこに立っている人がそんなことを言ってしまうのは、あまりに無神経じゃないですか。自身も歌詞を飛ばしていた中で。演技や演出が公演を通して変更・洗練されていくのとは話が違う。

恐らくですが、あれらに直接関わっていた方々は「ご愛嬌のミス」だなんて思ってはいないと思う。そうであってほしい。
客にも、他キャストにも、演出にも、スタッフにも、全てに対しての侮辱だと思いました。

 

初舞台だとしても、歌の経験がなくても、
演技と存在感で、社会現象を起こした『本物』を演じてきた実績でこの作品を裏付けてくれるはず、そうであってくれと思っていた。

 

 

 

のだめカンタービレは素晴らしい漫画だと思う。今回の前後で読み返して改めて感じた。
ドラマもアニメも評価されるのが頷けるものだったと思う。

ずっと自然と人生の中にあった作品が他の大好きと結び付いたと、告知を見たときから多少の不安こそあれずっと楽しみにしていたのに。楽しめる部分も間違いなくあったのに、のだめが、音楽が、オーケストラが、ミュージカルが大好きなのに、こんなにも自分が憤っていることが悲しい。
いや峰くん100%有澤さんじゃんとか言って8か月キャストを待ったのも、次第に心配が募ってからもいざ上演されればきっと全部ひっくり返せると信じていたのも馬鹿みたいだ。

 

 

もしもブラッシュアップした再演が今後存在して、勝手な思い付きを言うのなら、今回の2幕部分はばっさり捨てて学園祭⇒ラフマニノフ連弾をクライマックスに持ってくるとかの方がいいのではないかと思う。何にせよ大幅に手を入れてほしい。

「千秋からのだめを抱きしめる」というわかりやすいラブシーンに辿り着きたかった意図も想像は出来るんだけど、大川ハグを越えてパリへ行ってものだめと千秋は「恋人デス♡」「ちげえ!!」から当分変わらないし、逆に学祭で終わったって既に千秋がのだめのピアノに惚れ込んでる事実も変わらない。
清良と黒木くんの存在は丸ごとなくなることになるけど、単純計算で各シーンに掛けられる時間が倍になるし。少なくともあんなに大雑把な展開にはならないだろう。

 

あのアカウントで主観で騒ぎ立てたことによって、わたしが大事に思う色んなものの評価も傷つけているんだろう。本当に申し訳ないなと思う。
わたしの発言が確実に誰かからの評判に影響を与えたのを目の当たりにして、なんてことをしてしまったんだろうとも思う。

お願いだから、残り1か月で全部ひっくり返してください。
どうかチケット捨てたことを後悔できますように。